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“やさしさ”でつなぐインバウンド。MATCHAが挑む、多言語発信。/株式会社MATCHA・青木優さん

インタビュー

2025/10/17

インバウンド需要が増加する昨今、2024年末の時点で日本に在留する外国人の数は370万人を超え過去最多を記録しました。今後もこの数は増加すると見込まれています。
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青木優
1989年生まれ、東京都出身。明治大学国際日本学部卒。 株式会社 MATCHA 代表取締役社長。内閣府クールジャパン・地域プロデューサー。 学生時代に世界一周の旅をし、2012年にドーハ国際ブックフェアのプロデュース業務に従事。デジタルエージェンシーaugment5 inc.に勤めた後、独立し起業。2014年2がつより訪日外国人向けWeb メディア「MATCHA」の運営を開始。現在10言語に対応し、様々な企業や自治体と連携しながら海外への情報発信を行なっている。

インバウンド向けメディア「MATCHA」では多言語でのコンテンツ提供に加えて、10年以上前からルビ付きの「やさしい日本語*」での発信にも取り組んでいます。観光業におけるルビ付き・やさしい日本語での発信を行っている企業は数える程しかないため、日本について学ぼうとする外国人の方々に非常に人気のメディアです。いち早く時代を捉えた動きで、この分野での拡大を続ける株式会社MATCHAの代表取締役・青木優さんに、今回お話を伺いました。

*「やさしい日本語」とは:
普段使われている言葉を言い換えて、外国人などにも分かりやすいように配慮した簡単な日本語のこと。阪神淡路大震災の際、日本にいた外国人の中には日本語を十分に理解できず、必要な情報を受け取ることができない人もいた。そのような人々に適切な情報を届けるために考え出されたのが「やさしい日本語」である。

災害をきっかけに、外国人に必要な情報を届けるために考案されたものであるが、日常における外国人支援においても、また外国人以外の人々にとっても生活の助けになっていることが近年の研究でわかってきている。現在では医療や自治体、生活情報や観光情報など、様々な場面で取り入れられるようになってきている。

多言語の一つに、「やさしい日本語」という選択肢

青木さん:

MATCHAの「やさしい日本語」は、立ち上げ当初、対応言語を徐々に増やしていく過程で、とある大学の日本語教師の先生から会社宛てに「やさしい日本語化しませんか?」とメッセージが来たのがきっかけで生まれました。

連絡をもらった当初は、「やさしい日本語って何?」という感じで全く知らなかったのですが、試しにその方に記事を1本やさしい日本語化してもらったところ、すごくビビッときたんです。日本に関心を持つ外国人は年々右肩上がりで増えているので、そういった方々に情報を届ける際に非常に相性が良いなと直感しました。

具体的に言うとMATCHAでは、日本人向けに作成した記事を日本語検定N3レベル*に開いて更にルビを振るというステップを踏んで、やさしい日本語版の記事を作成しています。

N3レベルの文章に変換する際に明確なルールがあるわけではなく、あくまでMATCHAが考える旅行者視点での「やさしい日本語」にしています。だから、カタカナ英語にはあえて英語のルビを振り、直感的に理解しやすくする工夫もしています。

正直なところ、多言語対応して読者の母語で情報発信した方が手間は少なく済みます。しかし、日本語を学んでいる人たちはやっぱり日本語を使いたいでしょうし、「理解できた」と感じられる機会が増えれば、「また日本語を使いたい」「自分の力で日本の観光地に行きたい」という気持ちも高まるはずです。日本への意欲を持った方々のことを考えると、少々手間はかかったとしても、ルビ/やさしい日本語での発信には意義があると思っています。

*日本語検定N3レベル:一番やさしいレベルがN5で、いちばん難しいレベルがN1。N3レベルでは、日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができることが求められる。

大事にしたいのは、“やさしさ”というスタンス

ルビを振る/やさしい日本語に開くことで助かっている人がいるという実感は、日本で生まれ育った人にとってはなかなか湧きにくいものです。日常生活を見回しても、やさしい日本語やルビが普及しているとは言えず、どのような文章なのかイメージがつかない人もきっと多いでしょう。

MATCHAに「やさしい日本語」版を導入したことでの実際の反応はどのようなものだったのでしょうか。約10年ほど運用してきた中での周囲からの反響について、青木さんに尋ねました。

青木さん:

正直なところ、現段階で「やさしい日本語」版サイトページへのアクセスはそこまで多くありません。だから、以前社内で「やさしい日本語での発信を続けるべきかどうか」という話し合いにまでなったことがあるんです。

その話し合いの中で、メンバーたちが「やさしい日本語は、あるしゅMATCHAのスタンスであり象徴なので、それがなくなるのは心にぽっかり穴があく感じがする」とか「(やさしい日本語のページがなくなれば)MATCHAとして欠落する感覚があるし、悲しい気持ちになる」といった声が上がりました。それを聞いて、やさしい日本語やルビを振ることは機能的な良さだけでなく情緒的な部分での、我々の世の中への向き合い方・スタンスも表わしているんだなと気づきました。そういった声が社内から上がったことで改めて、やさしい日本語やルビの新たな一面を知り、結果的に今後も「やさしい日本語」版での発信は続けようということになりました。

このような出来事の他にも、10年近く「やさしい日本語」での発信をする中で意外な反響がありました。例えば、在日外国人の就職フェアに出店した際に「MATCHAのやさしい日本語版の記事を、日本語学校に通ってた時に使っていました」という生徒の声を聞いたり、日本語教師の方から「記事をプリントアウトして、よく授業で使っていますよ」という声を聞いたり。そういった実際の利用者の声を聞くと、運営側としても非常に意義を感じます。

このように、実際に「やさしい日本語」版を利用している人たちからの喜びの声もいただいていますし、発信側としても“やさしい世界”というスタンスを提示できることに満足しているということがわかり、改めて「やさしい日本語」やルビは機能的にも思想的にも素敵だなと思いました。

観光での地方創生。言語の領域は、可能性に溢れている。

青木さん:

観光というコンテンツを見回すと、やさしい日本語やルビはほとんど普及していない印象です。単発で出しているところはあるのかもしれませんが、私たちMATCHAのように継続的に取り組んでいるところは片手に収まる程度しかないような気がします。

そして、地方創生×観光は可能性に溢れた領域だと思っています。特に、地方創生という観点でキーとなるのは「観光」と「教育」の2つではないかと私は思っているので、「観光」にインバウンドを絡めるとすると、やさしい日本語やルビを拡げることで外国人の方々に安心感を与えることができ良い循環を生み出すきっかけになるのではないかと思います。

ほかにも、外国人にとって住みやすい街とは、コミュニティがあるかどうかだと私は思っています。そのコミュニティ形成の際に、やさしい日本語やルビを活用するのも良いですよね。

地方創生ひとつをとっても、やさしい日本語やルビは様々な場面で大いに役立つと考えています。今後は、こうした取組みが社会により一層広がっていくことを期待しています。


株式会社MATCHA

訪日・在日外国人向けに日本の情報が集まるメディア。

2013年に創業し、現在10言語で累計20,000記事以上の情報を発信し続けている。海外出身の英語版、<繁体字はんたいじ版の編集長が専属でおり、その国の読者に合わせて情報を編集して発信を行っていることも特徴のひとつ。観光スポットだけでなく、ホテルや温泉、グルメ、ショッピング、観光地へのアクセス、そして理想的なモデルコースまで、多岐にわたる情報が最大10言語で網羅されている。

また、日本最大級のメディア運営の知見を活かし、MATCHAメディアでのプロモーション実施、誰もが使える多言語情報発信ツール「MATCHA Contents Manager(MCM)]、リサーチから訪日向けの施略策定まで担うインバウンドマーケティング支援の3つの事業も展開。これまで累計360を越すクライアントのインバウンド課題をサポートしている。

・MATCHA(やさしい日本語):https://matcha-jp.com/easy

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