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科学雑誌を総ルビに?!誰でも科学の扉を開けるように。ふりがなで広がる興味の入口。 科学雑誌『Newton』・株式会社ニュートンプレス/書籍編集部 小松研吾けんごさん

インタビュー

2024/10/21

1981年に創刊し、科学雑誌として日本一の発行部数を誇る『Newton(ニュートン)』。この雑誌をきっかけに科学の世界へ興味を持った方もきっと多いのではないでしょうか?
ロフィール
小松研吾けんごさん
株式会社ニュートンプレス 書籍編集部

そんな『Newton』、実はルビが多く振ってあり『Newtonムック・別冊シリーズ』においては2023年10月以降の号はすべて総ルビになりました。科学ジャンルということで、内容は高度な部分もありますが、総ルビなので年齢に関係なく興味関心さえあれば“読む”ことが出来ます。他にも、「ニュートン科学の学校」シリーズ、「超絵解本」シリーズ、「ニュートン超図解新書」シリーズなどにはルビが多く振ってあり、低年齢の方や科学に馴染みのない方にとっても抵抗無く受け取ることができるような工夫が随所に散りばめられています。

そんな科学雑誌『Newton』を発行している株式会社ニュートンプレスの小松研吾けんごさんに、今回お話を伺ってきました。

エンターテインメントとして科学に触れてほしい

ルビ財団の活動の一環として、ふりがな(ルビ)がたくさん(フル)ある本=ルビフル本(総ルビ>ルビ多め>ちょいルビの3段階を独自に評価)の選書を行っています。

内容に関しては児童書ばかりが選出されないように、基準を「大人も子どもも楽しめる本」に設定しています。これに沿って科学ジャンルの本で選書した結果、『Newton』の一部シリーズには表紙や背表紙にまでルビが振ってあり、「ルビフル本」として完璧に近い形でした。

小松さん:ニュートンでは「中学生以上なら誰でも予備知識なしに読めること」を編集方針にしています。なので、元々は常用漢字にはルビを振らないという形になっていたのですが、別冊にルビをつけるという話が出た時に、「せっかくだから総ルビにしてはどうか」という意見が出て、別冊は総ルビになりました。今後“子ども向けの書籍”にも力を入れたいという方針も相まって、全体の敷居を下げるための一つの方法として総ルビとしました。繰り返しになりますが、創刊以来一貫して記事の内容は「予備知識がなくても楽しめる」を前提に作っていますし、イラストや図を使った解説が多いのもニュートンの“売り”なので、若い方から年配の方まで幅広く楽しんでいただけると思います。

特に表紙はパッと一番最初に見る部分ですので、表紙のルビをきっかけに(科学雑誌ということで)今までは少し敬遠していた方にも手に取っていただけるとすごくありがたいですね。

ルビフル本選書を行う中で、小学校から中学校に上がる段階で“急にルビが減る”且つ“大人の本は難しすぎる”ことで、その年齢域の子どもたちが“読むべき本・(一人で)読める本”が見当たらなくなる現状を目の当たりにしてきました。

また、書店の棚が「ジャンル」や「対象年齢」毎に分けられていることもあり、例えば中学生は小学生の棚の本を(プライドが邪魔して)読みたがらないという問題も実際にあるようです。

しかし、「ニュートン科学の学校シリーズ」や「超絵解本」の表紙には対象年齢が明記されておらず(2023年10月以降に刊行の超絵解本には「中・高生からの」と記載)、小学校~中学校の端境期にいる子どもたちにとって抵抗なく手に取れる書籍になっているのではと推察できます。

newton超絵解本の表紙 

(超絵解本シリーズの一例)

小松さん:年齢をある程度限定することで、その年齢の方が手に取りやすいという利点もあるとは思うのですがニュートンの場合、幅広い年齢層の方に手に取ってもらいたいと思っています。そういう意味で、ターゲットは意識しているけれど、限定的な表現はしていないんです。でも実は「超絵解本」シリーズは当初、「14歳からの~」と付けて出していたんですよ。というのも、それまでそういった表現の書籍がニュートンにはなかったので、あえて「若い方でも読めますよ」という意味で実験的に付けていました。その表現でもそれなりに良い反応は頂けたのですが、色々と試行錯誤していくうちに「中・高生からの~」という今の形になっています。いずれにせよ幅広い年齢の方に読んでいただきたいですね。

ニュートンは専門書ではなく、一般の人にある意味エンターテインメントとして科学に触れていただきたいと思っているので、ルビが振ってあることをきっかけに「読めた!」と言ってくださる方が多くなればすごくありがたいです。そしてニュートンをきっかけに一人でも多くの人が科学に興味を持ち、更に難しい本も読めるようになるといいなと思っています。

総ルビへの変更。率直な現場の声

小松さん

テクノロジーが発達した現代において、ルビを振ることは「それほど大変なことではないのではないか?」と考えがちですが、実際の現場では本を作る過程で(総ルビにすることで)どのような困難さを感じているのか、小松さんにお聞きしました。

小松さん:大きく分けて二つの困難さを感じています。
まず最初“総ルビに”という話になった時、「一体どうやってルビをつけようか?」というところからのスタートだったんですけれども、自動でルビを振るツールがあることはすぐにわかったので、それを導入して振ってみました。パッと簡単にルビが振られるのは楽で良かったんですが、ニュートンの場合、科学用語等のいわゆる専門用語が結構あるので、その都度手直しが必要なんですね。もちろん語彙を登録して次回から正確に振ることはできるんですけど、最初の段階はどうしても手で入力する必要があるというのが一つ目の困難です。

もう一つは、校正の段階で“本当に正確かどうか”を目視で確認する際に、どうしても今まで以上に時間と労力がかかるので、その辺りに困難さを感じていますね。

現場で使用するデジタルツールの仕様上、文脈によるルビの振り間違いも頻繁に起きるのでしょうか?

小松さん:そうですね、例えば「何万人」の万人(まんにん)のところが万人(ばんにん)と振られたり、何匹(なんびき)何匹(なんひき)の区別がたまにずれたりもします。そういった単位に関する表記はよく手直ししますね。それと、毎回悩むのが、読み方が複数ある場合にどちらを採用すればよいのかについてですね。例えば、二人がけ(ふたりがけ)なのか二人がけ(ににんがけ)なのか。二人連れ、二人前など単語によって二人(ふたり)と読む場合もあれば二人(ににん)と読む場合もあるので、そうやって迷った時はその都度調べています。

ルビ振りを完璧に仕上げることは現段階では難しく、現場で負担になっているという実情があるようです。

今後のテクノロジーの発展に伴い、ルビの振り間違いが改善されることを期待します。

“紙の本”ならではのやり取り

ルビ財団としては、デジタル上の文章にルビが多く振られることももちろん大事だと感じていますが、紙の本の文章にルビが増えることも非常に大事だと考えています。

紙の本が目の前にあり偶然手に取ることは、興味・関心の大切な入口になるはずだと思うからです。特に子どもたちにとって“なんとなく置いてある紙の本を手にする”ことから始まる本との出会いは、とても貴重な体験だと思います。

小松さん:私にも子どもがいるのでよくわかるのですが、紙の本だと目に付くところに置いておけるという利点がありますよね。電子書籍はあえて開かない限り読むことはできないですし、どうしても自分の興味のあるものだけにしか目を向けないという形になってしまうので、そういった意味でも紙の本は大事だなと感じます。それに、紙の本だと「貸してあげるから読んでみてよ」と共有が気軽にできるので、そういった点でもいいですよね。そうして目にした本の表紙にルビが振ってあれば、低年齢の子どもや漢字を読むのが苦手な方であっても読もうかな?と思ってもらいやすいでしょうし、興味・関心を広げるきっかけとして、ルビの役割というのはとても大事だと思いますね。

出版社が率先してルビを振ることの大切さ

本のつくり手側である株式会社ニュートンプレスの小松さんに様々なお話を伺うことで、現場での苦労や、雑誌『Newton』がどういった思いでルビを多く取り入れているのかを知ることが出来ました。

「予備知識なしに読めること」を前提としている雑誌『Newton』にルビが振られることでますます広く門戸が開かれ、科学に興味を持つ方が増えることを願います。

小松さん:今までは自分がそれなりに色々と本を読んでいることもあって(ルビがなくても読めるので)、ルビがどれくらい役立つのかということに気づきにくいところも正直ありました。でも、科学ジャンルだと難しい言葉が出てくる場合も多いですし、慣れていない人のことを考えるとルビがあることはすごく助けになるでしょうね。科学のこと、例えば量子力学について知ることはとても面白いので、ルビが振ってあることで「読んでみようかな」と思っていただいて、科学の面白さに気づくきっかけになればいいなと思います。