【前編】シングルマザーの暮らしやすさを左右する、意外な盲点とは?「LivEQuality(リブクオリティ)」岡本 拓也さん×「ルビ財団」理事 宮崎 真理子 対談
インタビュー
2024/09/06
社会福祉の分野で活躍する二人に、実際の現場の声・経験から感じるルビの必要性・日本社会にルビを取り入れることで起こる変化などについて語ってもらいました。
母子に“住まいを届ける”、「LivEQuality(リブクオリティ)」
岡本さんは39歳の時に突然、建設会社の社長に就任。それまでは公認会計士とコンサル会社で企業再生の仕事に従事し、その後ソーシャルセクターの道へと進み、NPO 法人ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京という中間支援団体の代表理事、認定 NPO法人カタリバの常務理事兼事務局長を歴任してきました。“社会課題解決”のために動いてきた岡本さんだが、父の急逝を機に突然、建設会社を事業継承することに。
僕は父がつくった会社のことも建設業のことも全く分からなかったですし、継ぐ気はありませんでした。お葬式なんかは泣く暇もないほどで。終わってバタバタと東京に戻る前に「社長になってほしい」と言われたときにも、お断りしました。でも、世の中を少しでもよくしたいと思って仕事をしてきたのに、父にとって家族同然の人たちが困っている時に、何もしないというのが...自分に対して納得いかない部分がありました。あるとき、父の右腕としてバックオフィスをずっとみてくれていた方が、目の前で泣いているのを見て。あまり深い理由はないんですが、心が動いて。もうこれもご縁だからやろう!と、引き受けることにしました。振り返ると、大事な局面のときほど深い理由がなく、直感で決断しているようです。
note:岡本拓也 | LivEQuality 代表 | 千年建設 CEO
『39 歳・未経験で建設会社の社長に就任した僕が、困窮するシングルマザーを支える NPOと会社をつくった話』
これまで NPO・ソーシャルセクターの世界で尽力してきた岡本さんにとって、地方建設会社の社長として求められる役割はあまりにも違うもので、続けるか否かの葛藤もあったそうです。
そんな中、千年建設を継いで3年目の春、コロナ禍という新たな危機が訪れます。社会構造が大きく揺らぐ中、シングルマザーの方々が「住まい」の面でも困窮し負のスパイラルが生まれていることを知り、岡本さんの心が大きく動きました。
コロナ禍の状況を踏まえて、「永らく地域に根ざして事業を継続してきた建設会社だからこそ出来る貢献の方法とは何か」。この問いの中で生まれたのが「LivEQuality(リブクオリティ)」という困窮しているシングルマザーの住まいや暮らしをサポートする取り組みです。
「LivEQuality」は、「千年建設」がもつ技術でリノベーションした安心安全な住まいを、「株式会社LivEQuality大家さん」が困窮するシングルマザーに低価格で提供し、「NPO法人LivEQuality HUB」が伴走やコミュニティづくりを行って、暮らしを日常的にサポートするという、NPOとビジネスのハイブリッド形式の取組み。
NPO・ソーシャルセクターの世界で「社会性と収益性の両立」に尽力してきた岡本さんだからこそ、ファミリービジネス・ファイナンスを通じて新たな可能性を創造し、大きなひろがりを見せています。
母子サポート現場でのルビの必要性
宮崎さん:シングルマザーの自立支援活動にルビを取り入れては?というお話を最初に聞いたとき、率直にどう思われましたか?
岡本さん:最初は正直、「必要かなあ?」って思いました。でも、LQ HUB(NPO法人 LivEQuality HUBの略)のメンバーから意見を聞いてみると、「なるほど、必要だな」と思い直しましたね。特にルビが必要だなと思ったのが、行政系の書類です。というのも、我々LQの活動に関わるシングルマザーの約3分の1が外国籍の方なんですよ。彼女たちはひらがなは読めて音で聞けば理解できるんだけど、漢字が多いと読めなくなってしまうみたいなんです。だから行政書類の確認の際はLQ HUBスタッフがサポートをすることもあります。でも、スタッフも常にサポート出来るわけではないので、中には重要な書類が読めなくていつの間にか滞納しちゃってたっていうことも起きてたみたいです。ルビがふってあれば自力で読めて、そういったことも起きなかっただろうにと思うと、結構衝撃的な話でしたね。
宮崎:日本に住んでいる外国籍の方のうち約8割は、日本語で会話ができるというデータがあるんです。ただ、会話はできるけど、“読む”となった時に漢字がネックになっているんだろうなとは思いますね。
岡本さん:他にも、日本語母語話者の方でも、精神疾患の方で漢字が読めないというケースもあります。どういうことかというと、そういう方の中には高校に行っていないケースが結構あって。ひらがなはもちろん読めるんですけど、漢字がしっかりと読めないことも多々あるようです。
宮崎:そうですよね。私も若年妊婦の方のサポートをしていたことがあるのでよくわかります。そういった子が制度に繋がるまでの大きなハードルの一つになっているのが、役所に行って難しい書類をたくさん読んで提出しなくちゃいけないってことなんです。やっぱり正確性を求める公的な言葉なので、難しくて心が折れちゃう。そういった場合に支援員が同行してサポートをするんですけど、個別のケアなので非常に手間もかかるし、大変ですよね。
岡本さん:そうなんです。なのでLQHUBスタッフも行政手続きに関するフォローは頻繁にしていると聞いています。フォローせざるを得ない大きな要因の一つがやはり「言語の問題」です。それは相手が日本人であっても、外国籍の方であっても変わらない、解決すべき重要な問題だなと感じています。それと、(ルビがふってあることで)自力で漢字が読めるようになるっていうのは、本人の「尊厳」や「自己肯定感」にも繋がると僕は思っています。(役所等で)「さあ、手続きを始めましょう」という最初の段階でつまずかず、排除されない場を創り出すことって、その後の本人の学習意欲にも影響してくると思うんですよね。ルビをふることで、そうやって意欲面でのサポートをすることも重要だなと思っています。
宮崎:LQ HUBでは、お母さんたちの手続き的なサポートをやっていますけど、同時に子どもたちの支援もしていますよね。やっぱり子どもたちの身の回りのサポートも絶対的に必要になってくるので、LQ HUBのサポートとしてそれも大切なことだと思います。
岡本さん:そうなんです。LQ HUBスタッフももちろんサポートしているのですが、最近ありがたいことに、地域の方が自然と協力してくれる土壌が育ってきていて、とても良い現場になっているなあと感じています。
宮崎:私も(LQ HUBで)その現場を見て、すごく良いなあと思いました。支援員という役割を持った人だけが活動に関わるのではなくて、街の人たちがちょっとずつ気にかけてくれているのがありがたいですよね。そういう色んな人との関わりの中で、子どもたちの言葉も育っていくんだろうなと思います。
岡本さん:地域の人が手を差し伸べてくれる光景を見て、子どもたちはたくさんの大人で育てるほうが良いんだろうなって改めて思いました。そのほうが一人ひとりの負担が減るし、大人もみんな負担のない範囲でやっているから楽しそうだし、お母さんも嬉しそうだし。
宮崎:本当にそう思います。いわゆる勉強だけじゃない生活の知恵みたいなことも学べるから、たくさんの大人で育てるって大事ですよね。
※岡本拓也さん×宮崎真理子さんの対談は後編へ続きます。
コラム
2024/10/04
インタビュー
2024/09/26