【後編】見えないハードルに気づける、寛容な社会への鍵「LivEQuality(リブクオリティ)」岡本 拓也さん×「ルビ財団」理事 宮崎 真理子 対談
インタビュー
2024/09/12
前編はこちら:シングルマザーの暮らしやすさを左右する、意外な盲点とは?「LivEQuality(リブクオリティ)」岡本拓也さん×「ルビ財団」理事 宮崎真 理子さん対談・前編
ルビで生まれる余白
宮崎さん:「ルビ財団」のお話を代表理事の伊藤豊さんから初めていただいた時に、保育の現場で頑張る先生たちの顔が一番に思い浮かびました。ルビが広まれば現場の先生たちは助かるだろうなって。というのも、保育の現場にも外国ルーツの方は多くて、だから先生たちは「お知らせ」にルビをふったり、ひらがなにひらいたりという作業を、自分の時間を削って一生懸命やっているんです。現場で対面してる先生が、最後は自分で何とかするっていう状況にどうしてもなっているので。そういった先生たちの負担を、「ルビフル機能」というテクノロジーだったり、ルビを普及したりすることで解決してあげたいなと思いました。保育以外でも、福祉支援の現場ってすごく手間のかかることが多いから、支援のニーズと一人にかけられる時間とのせめぎ合いがいつも起きているんです。部分的な解決かもしれませんが、ルビという切り口でそういった困りごとが解消することで、余白が生まれ、現場で本当にやりたいことに手が届くようになるはずなんですよ。
岡本さん:ルビがないことで、子どもが本を読みたい時に読めないということもありますよね。お母さんがいなかったり、忙しかったり、そもそもお母さんも漢字が読めない場合とか。そういった時にルビがふってあれば、小学校でひらがなを勉強するだけで自分でも本が読めるようになる。ルビのおかげで解決できることって意外と身近にいっぱいあるんだなと僕も勉強になりました。
「ルビ財団」の活動で見えてきたもの
宮崎さん:本の話で言うと、実は私、小学校で読み聞かせの活動を10年くらいやっていたんですよ。その読み聞かせの活動を通して、“本”が子どもたちの可能性を拓く上で凄い効果を発揮することを実感していました。それと、若年妊娠した子や外国籍のお母さんたちが“読めない”ことで苦労しているのも見ていたので、「可能性」と「問題解決」両方のシチュエーションで「ルビってあったらいいよな」と共感して、「ルビ財団」に加わることにしました。
いざ、「ルビ財団」として色々と勉強する中で、少年院の子どもたちにもルビが有効であることを知り、とても興味深いなと思いました。少年院の子どもたちに人気の本って「ハリーポッター」シリーズらしいんですよ。なぜかというと、「ハリーポッター」には全部ルビがふってあるからスラスラ読めるみたいで。その話を聞いてルビの重要性にまた深く納得しましたね。読書の機会に恵まれなかった子とか、機会を逃してしまった子でも、ちゃんと読書の入口に立てるという意味で、ルビって大事だなと改めて思いました。他にも、少年院に視察に行って初めて知ったのですが、少年院を出る時になるべく就労に繋げたいから、世の中の仕事や資格についての本を勧めるんだけど、やっぱり漢字が読めない場合が結構あると。それと筆記の資格試験にも漢字が多く出てくるから、難しくて挫折して資格取得まで繋がらない。でも、よく考えてみると、例えば力仕事や手仕事の分野ってそこまで漢字の知識がなくてもできるじゃないですか。そういった実情を考えると、手に職をつけて自立してリスタートできることの方が大事なはずだから、資格試験にもルビをふれば良いと思うんですよね。そういった意味でもルビってある種のハードルをなくす、大きなスイッチになるなと感じています。
ルビって可愛い
社会福祉の現場でのルビの必要性について熱く語っていたお二人ですが、岡本さんから意外な言葉が飛び出しました。
岡本さん:「ルビ財団」のホームページを見て思ったんですけど、ルビって可愛いですよね(笑)。改めて見るとビジュアル的に凄く良い感じだなと思って。
宮崎:可愛い(笑)。
岡本さん:でもそれって結構大事なことだと僕は思っていて、あたたかい雰囲気というか、そういう印象をルビから受けたということはお伝えしておきたいなと。ルビがふってある世界に実際に接してみることは重要じゃないかなと思いました。
※「ルビ財団」HPの一部。「ルビフル↔︎ルビなし」でオンオフを切り替えることができます。
宮崎:私もルビを広める活動をやっていて気づいたんですけど、“権威が薄まる良さ” がルビにはあるなと思っていて。
岡本さん:確かにそれはあるかもしれない。ルビがついていることで、読み手に歩み寄ってくれている感じがしますよね。すごくフラットな印象になるので読みやすいと思います。僕もルビ財団のことを知るまでは、外国籍以外の人にとってもルビが必要ということを知らなかったので、結構衝撃でした。その衝撃っていうのは自分に対してですね、「ああ、僕こういうこと何にも知らなかったんだ」って。そういう方々へのまなざしを、この世界を知ったことでもっと持てるようになったと思います。僕みたいにNPOをつくって運営している人間でさえ知らなかったのだから、世の中のビジネスパーソンと言われている人たちは正直ルビの必要性をまだ知らないと思うんですよね。でも、知ることで世界の見え方も変わってくると思うので是非知ってほしいです。少しでも多くの人がルビに触れる入口として、(ルビの)ビジュアルが可愛いとか雰囲気があたたかいって大事だなと思いました。
寛容な社会が人々の可能性をひらく
宮崎:様々な事業のサポートをする中で、それぞれにルビの重要性は感じるのですが、ルビが絶対に必要というわけではなくて、つける・つけないを選択できる世の中になればいいなと思いますね。例えば、私は介護事業のサポートもやっているのですが、介護ケアスタッフの外国人比率って2割ほどあるんですよ。彼らの多くはめちゃくちゃ優秀で、中には本国で看護の大学院を出ている方も結構います。そんな彼らにとって何がハードルかというとやっぱり“漢字”で、社内文書や連携事業者からの指示書が読めないということでつまずいている場合が多いんです。。将来的には本国に帰って起業しよう等、色々と考えて勉強しに日本に来てくれているんだけれども、漢字がハードルになって本来持っている可能性をひらけていないということがあって。それを「日本で勉強しているんだから漢字も覚えるべきだ」っていうのはちょっと違うんじゃないかなと。「日本で介護を学んでみよう」という、そのチャレンジ精神があることが素晴らしいよねって私は思うんです。
岡本さん:今回ルビについて考える中で、ひらがなを読んで理解できる外国ルーツの方が予想以上に多いことを初めて知って、凄いなと思いました。音で聞いてわかる状態って、皆さんかなり努力していると思うんですよ。僕はそれで十分で、漢字を学ぶところまでいかなくてもいいと思うんですよね。深刻になりすぎてもしょうがないというか。深刻になることは減点方式で物事を判断する風潮にも繋がっていくと思うんだけど、そういうことじゃなくって、もっとみんなが入れる余地をつくる方向に社会が動いて欲しいなと思いますね。ちょっと間違っていたり、ちょっとルートを外れていたりしても「それでいいじゃん」みたいな世の中になるといいなと。そういった寛容さが必要で、“ルビ”がその寛容さに繋がるんじゃないかなと思いますね。
宮崎:確かに、必要な人が・必要な時に適切なツールを手にできる社会がいいですよね。ルビフルボタン一つで、ルビをつけたりつけなかったりできるから、時と場合に応じて選べますし、そういったことが寛容で成熟した社会に繋がる気がしますね。
少し困っていること、なくても大きな問題ではないがあれば助かること、そういった問題が世の中には多く存在しています。こういった問題を「努力・忍耐」で乗り越えるべきと考えるのではなく、ほんの少しお互いが歩み寄ることで“寛容さ”が生まれ、一人ひとりが輝ける社会へと成熟してゆくのではないでしょうか。今回、社会福祉の面からルビについて考えることで、「困っていることを言い出せない状況」があらゆるところで起きていることがわかりました。そしてルビが、さりげなく有効に働くことも見えてきました。誰かを置いてけぼりにする社会ではなく、全ての人が自分らしく生きる一助として、今後ルビが広まってゆくでしょう。
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